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東京高等裁判所 昭和24年(新を)1789号 判決

被告人

李鐘洛

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役五年に処する。

原審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人の控訴趣意第一点について。

(一)  本件記録によれば、被告人が昭和二十四年三月三十日に開かれた原審第一回公判廷に於て、検察官の裁判所に提出した被告人に対する追起訴状の謄本を、裁判所から交付されたこと、原審裁判官が右謄本の交付後直ちに「本件について審理する」旨を告げ、検察官が起訴状、追起訴状の朗読を為して、右につき審理に入つたことを認め得られるけれども、前記謄本の交付が訴訟関係書類の送達として適式であることは刑事訴訟法第二百七十一条、第五十四条、刑事訴訟規則第百七十六条、第六十五条等の諸規定に徴して明白であるし、更に記録を精査しても原審が前記追起訴状謄本送達の後直ちに其の審理に入つたことにつき被告人が異議を申立てたと認めるに足る事跡は毫も存しないから、此の点に関する瑕疵は被告人の責問権抛棄により是正せられたと解すべきである許りでなく、元来右追起訴状記載の事項は既に検察官が同年三月十九日附で裁判所に提出し、被告人が同月二十二日其の謄本の送達を受けていたと認められる「訴因及び罰条の追加請求書」と題する書面の記載内容と同一であるから、被告人は前記第一回公判期日の五日以前既に右書面の送達によつて其の内容を諒知し之に対する防禦の機会、期間を与えられており、追起訴状謄本の交付によつて始めて、新に実質的な不利益を生ぜしめられ、其の権利を侵害せられたとも解し難い。従つて之を以て原審が不法に公訴を受理、審判したものと謂い得ないのは勿論、判決に影響を及ぼすべき訴訟手続上の法令違背があつたとも認め難いから、此の点に関する論旨は理由がない。

(二)  原審が訴因、罰条の追加、変更を命ずる等の措置を採ることなく、所論の通り単独犯として起訴された窃盜につき共謀と認定し、共謀として起訴された窃盜につき単独犯と認定していることは、記録に徴し之を認め得られるけれども夫々両者は其の基本的事実関係を同じくし、同一性を保つていると謂うべきで、判決の事実認定に於て、訴因に含まれた事実の一部を此の程度に変更するには、刑事訴訟法第三百十二条の措置を講ずるの要がないから、原審の訴訟手続に法令の違背があるとは解し難く、又右の同一性の点から観ても之を以て原審が審判の請求を受けた事件について判決をせず審判の請求を受けない事件について判決をしたとも謂い得ない。論旨は理由がない。

(註 本件は沒收不当により破棄自判)

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